妖怪キッズ
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文車妖妃(読み方:ふぐるまようひ)の子供向けイラスト

ふるい手紙と文車妖妃

文車妖妃・ふぐるまようひ
5-10歳向け文車妖妃のお話
壱
はじまり

文車妖妃って?

商店街しょうてんがいの古道具屋ふるどうぐやで、みおは巻紙まきがみを見みつけます。そこには江戸えどから続つづく、文ふみの妖怪ようかいの気配けはいがありました。

弐
おはなし

お話

はじまり

夕方ゆうがたの商店街しょうてんがいは、焼やきたてのたい焼やきの甘あまい匂においと、八百屋やおやさんの元気げんきな声こえでいっぱいでした。三年生さんねんせいのみおは、学校がっこうの帰かえりに、おばあちゃんの店みせへ寄よりました。

おばあちゃんの店みせは、小ちいさな古道具屋ふるどうぐやです。古ふるい茶碗ちゃわん、すべすべした木箱きばこ、柱時計はしらどけい、色いろあせた絵葉書えはがき。どれも静しずかに息いきをしているようでした。

「みお、奥おくの押入おしいれを少すこし手伝てつだってくれるかい」

おばあちゃんに言いわれて、みおは畳たたみの部屋へやへ入はいりました。外そとの光ひかりが障子しょうじを通とおって、牛乳ぎゅうにゅうみたいに白しろく広ひろがっています。押入おしいれの下したには、細長ほそながい桐箱きりばこがありました。

文車妖妃 のシーン 1

ふたを開あけると、かすかに紙かみとお香こうの匂においがしました。中なかには、古ふるい巻紙まきがみが何本なんぼんも入はいっていました。糸いとで結むすばれ、端はしは月つきの色いろみたいに黄きばんでいます。

みおが一本いっぽんに指ゆびを触ふれると、さらり、と風かぜもないのに紙かみが鳴なりました。

その音おとは、だれかが小ちいさくためいきをついたようでした。

ある日ひのできごと

「読よんではいけない文ふみもあるんだよ」

おばあちゃんは急きゅうに静しずかな声こえになりました。「昔むかしの手紙てがみには、書かいた人ひとの心こころが残のこることがある。うれしい心こころも、かなしい心こころもね」

みおはうなずきました。でも、桐箱きりばこの奥おくで、一本いっぽんだけゆるくほどけかけた巻紙まきがみが気きになりました。細ほそい墨すみの字じが、少すこしだけ見みえています。

その夜よる、みおは家いえの食卓しょくたくでカレーを食たべながらも、あの巻紙まきがみのことを考かんがえていました。じゃがいもの湯気ゆげも、スプーンの音おとも、どこか遠とおく感かんじます。

次つぎの日ひは土曜日どようびでした。みおが店みせの戸とを開あけると、ちりん、と鈴すずが鳴なり、奥おくの部屋へやから紙かみのすれる音おとが聞きこえました。

おばあちゃんは配達はいたつに出でています。みおは息いきをのみ、畳たたみの部屋へやへ向むかいました。

桐箱きりばこのふたは少すこし開あいていました。巻紙まきがみが畳たたみの上うえにほどけて、白しろい道みちのように伸のびています。その先さきに、ひとりの女おんなの人ひとが立たっていました。

長ながい黒髪くろかみ、うすい着物きもの、手てには巻紙まきがみ。でも、足元あしもとは紙かみの影かげのようにぼんやりしていました。

「わたくしは、文車妖妃ふぐるまようひ」

その声こえは鈴すずのようで、遠とおい雨あめのようでもありました。「古ふるい文ふみに積つもった思おもいが、形かたちを得えたもの」

文車妖妃 のシーン 2

みおはこわくて、でも目めをそらせませんでした。

心こころ通かようとき

文車妖妃ふぐるまようひは、巻紙まきがみをそっと広ひろげました。墨すみの字じが流ながれるように並ならんでいます。みおにはむずかしくて読よめません。でも、字じの間あいだから、梅うめの花はなの匂においと、冬ふゆの夜よるの冷つめたさがふわりと出でてきました。

「これは、だれかの恋文こいぶみですか」

みおが小ちいさく聞きくと、文車妖妃ふぐるまようひは目めを伏ふせました。

「返事へんじを待まち、待まちつづけた文ふみ。読よまれたのか、読よまれなかったのか。それさえ分わからぬまま、箱はこの底そこで眠ねむっておりました」

みおは、胸むねの奥おくがちくりとしました。昨日きのう、友ともだちのリナから来きた短みじかいメッセージを、まだ返かえしていなかったのです。たいした用事ようじではないと思おもっていました。でも、待まっている時間じかんは、もしかしたら長ながく感かんじるのかもしれません。

「文車妖妃ふぐるまようひさんは、その人ひとをうらんでいるの」

女おんなの人ひとの袖そでが、さらさらと鳴なりました。

「うらみは、紙かみを重おもくします。けれど、思おもいはそれだけではありません。好すきでした、会あいたかった、元気げんきでいてほしかった。言いえずに残のこった言葉ことばが、わたくしをここに立たたせているのです」

そのとき、店みせの前まえを豆腐屋とうふやさんの自転車じてんしゃが通とおり、ぷう、とラッパの音おとがしました。現代げんだいの商店街しょうてんがいの音おとが、古ふるい文ふみの静しずけさにまざります。

文車妖妃 のシーン 3

みおは自分じぶんのランドセルから国語こくごのノートを出だしました。そして、ていねいに一枚いちまいを切きり取とりました。

「読よめない昔むかしの字じのかわりにはならないけど、わたしが書かいてもいいですか。待まっていた気持きもちが、少すこし休やすめるように」

文車妖妃ふぐるまようひは驚おどろいたように目めを上あげました。みおは鉛筆えんぴつを持もち、紙かみの上うえに書かきました。

あなたの文ふみは、いまここで読よまれました。待まっていた気持きもちは、たしかにありました。どうか春はるの風かぜのように、軽かるくなりますように。

書かき終おえると、窓まどの外そとから金木犀きんもくせいの匂においが流ながれてきました。文車妖妃ふぐるまようひの巻紙まきがみが、ふわりと明あかるく見みえました。

文車妖妃 のシーン 4

ふりかえって

文車妖妃ふぐるまようひは、みおの紙かみを両手りょうてで受うけ取とりました。指先ゆびさきは冷つめたそうなのに、紙かみに触ふれた場所ばしょだけ小ちいさな灯ひのように温あたたかく見みえました。

「文ふみは、運はこばれるために生うまれます。読よまれ、思おもわれ、しまわれ、また開ひらかれる。あなたは止とまっていた車くるまを、ほんの少すこし動うごかしました」

その言葉ことばの終おわりに、畳たたみの上うえの巻紙まきがみが音おともなく巻まき戻もどっていきました。白しろい道みちは細ほそくなり、桐箱きりばこの中なかへおさまります。

文車妖妃ふぐるまようひの姿すがたも、夕焼ゆうやけの色いろを吸すいこんだ紙かみのように薄うすくなりました。

「だれかに届とどけたい言葉ことばを、粗末そまつになさいませぬよう」

そう言いって、女おんなの人ひとは消きえました。あとには、古ふるいお香こうの匂においと、みおの書かいた紙かみだけが残のこっていました。

ちょうどそこへ、おばあちゃんが帰かえってきました。みおが起おきたことを話はなすと、おばあちゃんは少すこしも笑わらわず、桐箱きりばこに手てを合あわせました。

「文車妖妃ふぐるまようひに会あったのかい。江戸えどの絵師えし、鳥山石燕とりやませきえんが描えがいた妖怪ようかいだよ。古ふるい恋文こいぶみの思おもいが女おんなの姿すがたになったと言いわれている」

みおは桐箱きりばこをそっと閉しめました。木きのふたは手てのひらになめらかで、少すこし温あたたかい気きがしました。

帰かえり道みち、夕空ゆうぞらは桃色ももいろから藍色あいいろへ変かわっていました。みおはスマートフォンを開ひらき、リナへ返事へんじを打うちました。

おそくなってごめんね。明日あした、いっしょに図書館としょかんへ行いこう。

送信そうしんの音おとはとても小ちいさかったけれど、みおにはどこかで古ふるい車くるまがころりと動うごいた音おとのように聞きこえました。

文車妖妃 のシーン 5
参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 文車妖妃ふぐるまようひは、鳥山石燕とりやませきえんの妖怪画集ようかいがしゅうに描えがかれました。

  2. 文車ふぐるまは、昔むかしの文ふみを運はこぶ車くるまという言葉ことばにちなみます。

  3. 古ふるい道具どうぐに魂たましいが宿やどる考かんがえは、付喪神つくもがみと呼よばれます。

  4. 恋文こいぶみの思おもいが鬼おにの姿すがたになる怪談かいだんも、江戸えどの本ほんに見みられます。

大切なこと

言葉ことばは小ちいさくても、受うけ取とる人ひとの胸むねで長ながく光ひかることがあります。急いそがしい日ひにも、だれかを思おもって返かえす一言ひとことが、古ふるい文ふみのように静しずかなぬくもりを残のこします。

肆
きをつけて

気をつけること

古ふるい手紙てがみがひとりでにほどけたら、声こえに出だして読よまず、まず紙かみのためいきを聞きいてみて。

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