妖怪キッズ
みんなの妖怪へ約10分
一反木綿(読み方:いったんもめん)の子供向けイラスト

ひらひら白い一反木綿の夕べ

一反木綿・いったんもめん
5-10歳向け一反木綿のお話
壱
はじまり

一反木綿って?

夕暮ゆうぐれの商店街しょうてんがいで、白しろい布ぬののような妖怪ようかいに出会であう子こどもの物語ものがたりです。鹿児島かごしまに伝つたわる不思議ふしぎな気配けはいを味あじわえます。

弐
おはなし

お話

はじまり

鹿児島かごしまから引ひっこしてきた祖母そぼの家いえには、古ふるい木綿もめんの手てぬぐいが何枚なんまいもありました。夏なつの終おわり、商店街しょうてんがいの八百屋やおやから青あおいみかんのにおいが流ながれ、夕方ゆうがたの空そらはうすいだいだい色いろに染そまっていました。

小学しょうがく二年生にねんせいのそうたは、祖母そぼの小ちいさな針箱はりばこを持もって、近ちかくの神社じんじゃへ向むかいました。神社じんじゃでは秋祭あきまつりの準備じゅんびがあり、ちょうちんを結むすぶ人ひとたちが赤あかいひもを風かぜにゆらしていました。

一反木綿 のシーン 1

「日ひが落おちる前まえに帰かえっておいで」

祖母そぼはそう言いってから、ふと声こえを低ひくくしました。

「鹿児島かごしまの大隅おおすみや肝付きもつきのほうではね、夕暮ゆうぐれに一反木綿いったんもめんが出でると言いうんだよ。長ながい白しろい木綿もめんが、音おとも声こえもなく飛とんで、顔かおにふわりと巻まきつくんだ」

そうたは笑わらいました。「ただの布ぬのでしょう」

けれど、祖母そぼがたたんだ手てぬぐいをそっとなでる指ゆびは、まじめでした。木綿もめんの表面ひょうめんは少すこしざらりとして、洗あらった日ひなたのにおいがしました。

ある日ひのできごと

神社じんじゃの境内けいだいは、屋台やたいの木きの板いたを打うつ音おとや、たこ焼やきの鉄板てっぱんをこする音おとでにぎやかでした。そうたは社務所しゃむしょの前まえで針箱はりばこを渡わたし、帰かえりに手水舎ちょうずやの水みずで指ゆびを冷ひやしました。石いしのふちが昼ひるの熱ねつを少すこしだけ残のこしていました。

帰かえり道みち、そうたは近道ちかみちをしようと、川かわぞいの細ほそい道みちへ曲まがりました。住宅じゅうたくの窓まどに明あかりが一ひとつ、また一ひとつともり、川面かわもは灰色はいいろに光ひかっていました。草くさの間あいだから虫むしの声こえがしみるように聞きこえます。

そのとき、目めの前まえを白しろいものがすうっと横切よこぎりました。

はじめはレジ袋ぶくろかと思おもいました。けれど、それは袋ふくろではありません。幅はばは細ほそく、長ながさは何なんメートルもありそうで、洗あらいたてのさらしのように白しろい布ぬのでした。風かぜがないのに、ひらり、ひらりと空そらを泳およいでいます。

音おとはしません。鳥とりの羽音はおとも、紙かみのかさこそいう音おともありません。夕暮ゆうぐれの色いろの中なかで、その白しろさだけがやけに近ちかく見みえました。

そうたの首くびすじがひやりとしました。

「一反木綿いったんもめん……」

口くちに出だしたとたん、白しろい布ぬのはくるりと向むきを変かえました。まるでそうたの息いきを知しっているかのように、顔かおのほうへふわりと降おりてきたのです。

一反木綿 のシーン 2

心こころ通かようとき

そうたは祖母そぼの話はなしを思おもい出だしました。顔かおや首くびに巻まきつく。息いきを詰つまらせる。追おい払はらうには、身みを低ひくくしてやり過すごす。

そうたはとっさにしゃがみました。ランドセルが背中せなかでごつんと鳴なり、ひざに土手どての湿しめった土つちのにおいが近ちかづきました。

白しろい布ぬのは、そうたの頭あたまの上うえを音おともなく通とおり過すぎました。けれど、すぐに戻もどってきます。川かわのほうから冷つめたい風かぜが吹ふき、布ぬのの端はしがそうたのほっぺたをかすめました。水みずでしぼった手てぬぐいのように冷つめたく、でも少すこしなつかしい肌はだざわりでした。

一反木綿 のシーン 3

そうたはこわくて目めをつぶりそうになりました。でも、足元あしもとに何なにかが落おちているのに気きづきました。昼間ひるま、古着ふるぎの店みせの前まえから風かぜで飛とんできたのか、破やぶれた白しろい布ぬのきれがどろにまみれていました。

そうたは自分じぶんのポケットから、祖母そぼにもらった小ちいさな手てぬぐいを出だしました。角かどにほころびがあり、今日きょう、針箱はりばこで縫ぬってもらうつもりだったものです。

「ごめん。布ぬのをぽいっとしたら、いやだよね」

一反木綿いったんもめんは答こたえません。声こえも顔かおもありません。ただ、白しろいからだを川風かわかぜの中なかでゆっくり波なみのようにくねらせました。

そうたは落おちていた布ぬのきれを拾ひろい、泥どろを軽かるく払はらいました。すると、一反木綿いったんもめんは近ちかづいてきました。今度こんどは顔かおをおおうためではなく、布ぬのきれを包つつむようにふわりと丸まるくなりました。

その白しろさの中なかから、昔むかしの洗あらい水みずのにおい、日ひなたで乾かわいた木綿もめんのにおい、誰だれかの手てで大切たいせつにたたまれた記憶きおくのようなものがふわっと広ひろがりました。

一反木綿 のシーン 4

ふりかえって

商店街しょうてんがいの角かどまで戻もどると、魚屋さかなやのシャッターが半分はんぶんだけ下おり、焼やき魚ざかなのにおいが夕飯ゆうはんのにおいにまざっていました。そうたの手てには、泥どろを払はらった布ぬのきれが残のこっています。一反木綿いったんもめんの姿すがたはもう見みえませんでした。

祖母そぼは玄関げんかんでそうたを見みて、ほっと息いきをつきました。そうたが布ぬのきれのことを話はなすと、祖母そぼは静しずかにうなずきました。

「一反いったんほどの木綿もめんが舞まう話はなしは、こわい話はなしでもあるけれど、古ふるい物ものを粗末そまつにしない話はなしでもあったのかもしれないね」

その晩ばん、食卓しょくたくにはみそ汁しるの湯気ゆげが上あがり、なすの煮物にものが甘あまく光ひかっていました。祖母そぼは拾ひろった布ぬのきれを洗あらい、そうたの手てぬぐいのほころびに当あて布ぬのとして縫ぬいつけてくれました。針はりが布ぬのを通とおるたび、ぷつ、ぷつと小ちいさな音おとがしました。

次つぎの夕方ゆうがた、そうたは神社じんじゃの近ちかくを通とおりました。空そらには一枚いちまいの白しろい雲くもが細ほそくのび、風かぜに流ながれていました。ふいにその雲くもの端はしがひらりと曲まがった気きがしました。

そうたは立たち止どまり、頭あたまを少すこし下さげました。こわい気持きもちはまだ胸むねに残のこっていました。でも、その横よこに、洗あらった木綿もめんみたいなやわらかい気持きもちも残のこっていました。

一反木綿いったんもめんは声こえを出ださず、音おとも立たてず、夕暮ゆうぐれの道みちをひらひら行いく妖怪ようかいです。けれどそうたには、その白しろい背中せなかが、「ちゃんと帰かえれよ」と言いっているようにも見みえたのでした。

一反木綿 のシーン 5
参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 一反木綿いったんもめんは鹿児島県かごしまけんの大隅おおすみや肝付きもつきの話はなしに名なが見みえます。

  2. 一反いったんは昔むかしの布ぬのの長ながさの単位たんいで、着物きもの一枚分いちまいぶんほどです。

  3. 伝承でんしょうでは夕暮ゆうぐれから夜よるに白しろい布ぬのが音おとなく舞まうとされます。

  4. 川沿かわぞいや畦道あぜみちで出会であいやすく、身みを低ひくくするとよいと語かたられました。

  5. 不要ふような布ぬのが怪異かいいになったとも、風かぜの妖あやかしとも考かんがえられます。

大切なこと

古ふるい物ものには、使つかった人ひとの手てのぬくもりや日々ひびの記憶きおくが残のこることがあります。こわい伝承でんしょうの中なかにも、物ものをそっと見みつめるやさしい気持きもちがかくれているのかもしれません。

肆
きをつけて

気をつけること

夕暮ゆうぐれの川沿かわぞいで白しろい布ぬのが音おとなく近ちかづいたら、あわてず身みを低ひくくして、息いきの道みちを空あけましょう。

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