妖怪キッズ
鈴彦姫(読み方:すずひこひめ)の子供向けイラスト

すずの音がよぶ小さなまい

鈴彦姫・すずひこひめ
5-10歳向け鈴彦姫のお話
壱
はじまり

鈴彦姫って?

神社じんじゃの秋祭あきまつりで、りんはふしぎな鈴すずの音おとを聞ききます。神楽鈴かぐらすずを頭あたまにのせた妖怪ようかいとの、しずかな出会であいの物語ものがたりです。

弐
おはなし

お話

はじまり

夕方ゆうがたの神社じんじゃは、秋あきの匂においでいっぱいでした。いちょうの葉はは金色きんいろに光ひかり、屋台やたいのしょうゆの香かおりが風かぜにまじります。小学しょうがく三年さんねんのりんは、母ははと秋祭あきまつりの手伝てつだいに来きていました。

社務所しゃむしょのすみには、古ふるい神楽鈴かぐらすずが置おかれていました。白しろい紙垂しでのついた小ちいさな鈴すずが、いくつも束たばねられています。宮司ぐうじさんは、「これは神楽かぐらで使つかう大事だいじな鈴すずだよ。鈴すずの音おとは、神かみさまをお招まねきするとも言いわれるんだ」と教おしえてくれました。

りんはそっと耳みみを近ちかづけました。まだ誰だれも触さわっていないのに、ちりん、とひとつだけ音おとがしました。冷つめたい空気くうきがほおをなで、りんの胸むねまですずしく鳴なった気きがしました。

鈴彦姫 のシーン 1

ある日のできごと

祭まつりの舞台ぶたいでは、子こどもたちの神楽かぐらの練習れんしゅうが始はじまりました。笛ふえはぴいひゃら、太鼓たいこはとん、とん。けれど、りんは一歩いっぽを出だすところで足あしが止とまってしまいます。みんなに見みられると思おもうと、指先ゆびさきがこわばりました。

その時とき、拝殿はいでんの奥おくから細ほそい鈴すずの音おとが聞きこえました。ちりん、しゃらん。音おとはまるで白しろい糸いとのように空気くうきをすべり、りんを古ふるい絵馬えまの並ならぶ場所ばしょへ連つれていきました。

そこに立たっていたのは、女おんなの人ひとの姿すがたをしたふしぎなものです。頭上ずじょうには神楽鈴かぐらすずをのせ、顔かおは丸まるくすずやかで、目めもとにやわらかな光ひかりがありました。着物きもののすそは風かぜもないのにさやさや揺ゆれています。

鈴彦姫 のシーン 2

「あなたはだれ」りんが小ちいさく聞きくと、その人ひとは鈴すずの音おとみたいな声こえで答こたえました。「人ひとはわたしを鈴彦姫すずひこひめと描えがいたことがあります。むかしの絵えの中なかでね」

心こころ通かようとき

鈴彦姫すずひこひめはりんの前まえで、ゆっくりと手てを上あげました。すると頭上ずじょうの鈴すずが、しゃら、しゃら、と鳴なりました。大おおきすぎず、小ちいさすぎず、秋あきの虫むしの声こえとまざる音おとでした。

「鈴すずは、ただにぎやかに鳴なるものではありません。遠とおいものに気きづいてもらう音おと。心こころのほこりをはらう音おと。そして、こわばった足あしを一歩いっぽだけ軽かるくする音おとです」

鈴彦姫 のシーン 3

りんは自分じぶんの手てを見みました。緊張きんちょうで冷つめたかった指ゆびが、少すこしあたたかくなっています。「わたし、まちがえたらどうしようって思おもって」

鈴彦姫すずひこひめはほほえみました。「天岩戸あまのいわとのお話はなしにも、舞まいと音おとで明あかるさを招まねく女神めがみが出でてきます。上手じょうずに見みせるためだけの舞まいではありません。そこにいるみんなの心こころを、こちらへ招まねくための舞まいもあるのです」

ちりん。音おとが一ひとつ落おちると、りんの足元あしもとの落葉おちばが小ちいさく回まわりました。りんは深ふかく息いきを吸すいました。土つちの匂におい、綿わたあめの甘あまい匂におい、木きの床ゆかのひんやりした感かんじ。ぜんぶがりんの中なかに入はいってきました。

鈴彦姫 のシーン 4

ふりかえって

舞台ぶたいへ戻もどると、練習れんしゅうはもう終おわりかけていました。母ははが心配しんぱいそうに手てを振ふります。りんはうなずき、最後さいごにもう一度いちどだけ舞まいをさせてください、と言いいました。

笛ふえが鳴なり、太鼓たいこが響ひびきます。りんは袖そでを上あげ、教おそわった通とおりに一歩いっぽ、また一歩いっぽと進すすみました。まちがえそうになった時とき、どこかでちりん、と音おとがしました。その音おとに押おされるのではなく、そばに並ならんで歩あるいてもらうようでした。

終おわると、見みていた人ひとたちから小ちいさな拍手はくしゅが起おこりました。りんは顔かおを赤あかくしながら笑わらいました。拝殿はいでんの奥おくを見みると、鈴彦姫すずひこひめの姿すがたはもうありません。古ふるい神楽鈴かぐらすずだけが、夕日ゆうひを受うけて淡あわく光ひかっていました。

鈴彦姫 のシーン 5

帰かえり道みち、りんのポケットからちりん、と音おとがしました。中なかには何なにも入はいっていません。けれどりんはおどろきませんでした。鈴彦姫すずひこひめは、絵えの中なかから来きて、鈴すずの音おとだけを残のこして帰かえったのかもしれません。

夜よるの空そらに星ほしが出でるころ、りんはもう一度いちどだけ耳みみをすませました。町まちの音おとの間あいだに、ちいさなしゃらん。明日あしたの一歩いっぽを招まねくような、やさしい鈴すずの音おとでした。

参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 鈴彦姫すずひこひめは鳥山石燕とりやませきえんの百器徒然袋ひゃっきつれづれぶくろに描えがかれました。

  2. 神楽鈴かぐらすずは神楽かぐらで使つかわれ、神かみを招まねく音おととも考かんがえられました。

  3. 鈴彦姫すずひこひめには土地とちの目撃談もくげきだんが少すくなく、絵えから広ひろがった妖怪ようかいです。

  4. 石燕せきえんは天岩戸あまのいわとの天鈿女命あめのうずめのみことを思おもわせる説明せつめいを添そえました。

大切なこと

鈴すずの音おとは、遠とおい誰だれかだけでなく、自分じぶんの中なかの小ちいさな勇気ゆうきにも届とどくのかもしれません。こわい気持きもちがあっても、耳みみをすますと、次つぎの一歩いっぽを待まつ音おとが聞きこえる時ときがあります。

肆
きをつけて

気をつけること

神楽鈴かぐらすずがひとりでに鳴なったら、ふざけて振ふらず、音おとの終おわりまで静しずかに聞きいてみてね。招まねかれたものが近ちかくにいるかもしれません。

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