妖怪キッズ
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送り拍子木(読み方:おくりひょうしぎ)の子供向けイラスト

よるにこたえる拍子木の音

送り拍子木・おくりひょうしぎ
5-10歳向け送り拍子木のお話
壱
はじまり

送り拍子木って?

東京とうきょうのすみだの町まちで、夜よるの見回みまわりについてくる拍子木ひょうしぎの音おと。本所七不思議ほんじょななふしぎにふれる静しずかなお話はなしです。

弐
おはなし

お話

はじまり

春はるの終おわり、すみだの町まちには雨あめのにおいがのこっていました。古ふるい神社じんじゃのとなりに小ちいさな商店街しょうてんがいがあり、夕方ゆうがたになると、たい焼やきのあまい湯気ゆげと、ぬれた石畳いしだたみのにおいがまざります。

三年生さんねんせいの湊みなとは、学校がっこうの帰かえりに、祖父そふの辰夫たつおさんが持もつ拍子木ひょうしぎを見みせてもらいました。二本にほんのかたい木きを打うつと、カチン、カチン、と冬ふゆの星ほしみたいに澄すんだ音おとがします。

「むかしはね、火ひの用心ようじんと言いいながら、町まちを回まわったんだよ」

辰夫たつおさんはそう言いって、ゆっくり拍子木ひょうしぎを鳴ならしました。カチン、カチン。少すこし間まをおいて、遠とおくの路地ろじから、カチン、カチン、と同おなじ音おとが返かえってきた気きがしました。

湊みなとが耳みみをすますと、風かぜがのれんをなでる音おとだけ。けれど胸むねの中なかには、見みえないだれかがあとを歩あるいているような、くすぐったい感かんじがのこりました。

辰夫たつおさんは目めを細ほそめて言いいました。「本所ほんじょには本所七不思議ほんじょななふしぎという話はなしがある。その一ひとつが、送り拍子木おくりひょうしぎだ」

あめのよるのできごと

その夜よる、町会ちょうかいの見回みまわりがありました。商店街しょうてんがいの人ひとたちが黄色きいろい反射はんしゃたすきをかけ、提灯ちょうちんを持もって歩あるきます。湊みなとも辰夫たつおさんのとなりを歩あるきました。雨あめはやんだばかりで、アスファルトは黒くろく光ひかり、電柱でんちゅうの明あかりが水みずたまりの中なかでゆれていました。

「火ひの用心ようじん」

辰夫たつおさんの声こえにあわせて、みんなも声こえを出だします。カチン、カチン。拍子木ひょうしぎの音おとは、シャッターのおりた店みせ、細ほそい路地ろじ、川かわへ向むかう道みちにはねていきました。

見回みまわりが終おわり、辰夫たつおさんが拍子木ひょうしぎをふところへしまった時ときです。

カチン、カチン。

だれも打うっていないのに、うしろから同おなじ調子ちょうしの音おとがしました。湊みなとははっとして振ふり返かえりました。そこにはぬれた路地ろじ、白しろいガードレール、雨粒あまつぶをつけたあじさいがあるだけでした。

「いまの、だれ」

湊みなとの声こえは少すこし小ちいさくなりました。辰夫たつおさんは急いそがずに耳みみをすまし、にっこり笑わらいました。

「送り拍子木おくりひょうしぎかもしれないね。夜回よまわりの音おとについてきて、見みえない拍子木ひょうしぎが送おくるんだ。江戸えどの本所ほんじょでも、そう言いわれた」

また、カチン。こんどは一ひとつだけ。音おとは角かどのむこうでほどけるように消きえました。

みえないだれか

湊みなとはこわいような、たしかめたいような気持きもちで、角かどまで歩あるきました。そっとのぞくと、古ふるい家いえの軒下のきしたに、ほそい雨あめのしずくがならんでいます。しずくは街灯がいとうを受うけて、銀色ぎんいろの糸いとみたいでした。

カチン、カチン。

音おとは湊みなとの足元あしもとではなく、背中せなかの少すこし上うえを通とおっていくようでした。木きと木きが合あう乾かわいた音おとなのに、雨あめを吸すった町まちの中なかでやわらかく聞きこえます。

「おまえさんも、町まちを見みているの」

湊みなとは小ちいさく言いいました。返事へんじはありません。けれど、カチン、と一度いちどだけ鳴なりました。まるでうなずいたみたいでした。

辰夫たつおさんは湊みなとの肩かたに手てを置おきました。「むかしの人ひとは、これを壁かべや路地ろじに返かえった音おとだとも考かんがえた。けれど、雨あめの夜よるに拍子木ひょうしぎを打うたないのに聞きこえた、という話はなしもある。わからない余白よはくを残のこして、町まちは古ふるい記憶きおくをしまっているんだ」

その時とき、商店街しょうてんがいの奥おくで、かすかに焦こげたにおいがしました。パン屋やさんの裏うらの小ちいさな電灯でんとうがじりじりと音おとを立たてています。辰夫たつおさんが店主てんしゅさんを呼よび、みんなで確たしかめると、古ふるい延長えんちょうコードが熱あつくなっていました。すぐに電源でんげんを切きると、焦こげたにおいは薄うすくなりました。

湊みなとはもう一度いちど、暗くらい路地ろじへ向むきました。カチン、カチン。音おとは遠とおくへ去さっていきます。ありがとう、と言いう前まえに、雨上あめあがりの風かぜがほおをなでました。

あさにのこったおと

次つぎの朝あさ、湊みなとは学校がっこうへ行いく前まえに、神社じんじゃの石段いしだんへ寄よりました。空そらはよく晴はれ、葉はっぱの先さきから落おちるしずくが、ぽたり、ぽたりと鳴なっています。ゆうべの拍子木ひょうしぎの音おとはもう聞きこえません。

けれど湊みなとの耳みみには、カチン、カチン、という調子ちょうしがまだ残のこっていました。こわがらせる音おとではなく、ひとりで帰かえる人ひとの背中せなかを少すこし明あかるくする音おと。火ひを気きにかけ、町まちを気きにかけ、見みえないところでそっとついてくる音おとでした。

放課後ほうかご、湊みなとは図書室としょしつで本所七不思議ほんじょななふしぎの本ほんを開ひらきました。そこには、割下水わりげすいの近ちかくで夜回よまわりのあとから拍子木ひょうしぎが鳴なったこと、振ふり返かえっても人影ひとかげがなかったこと、送り提灯おくりぢょうちんという似にた話はなしもあることが書かかれていました。

湊みなとはノートにこう書かきました。「送り拍子木おくりひょうしぎは、町まちのうしろを歩あるく音おと」

その晩ばん、家族かぞくの食卓しょくたくで、湊みなとはゆうべのことを話はなしました。みそ汁しるの湯気ゆげ、焼やき魚ざかなの香かおり、窓まどの外そとの遠とおい車くるまの音おと。いつもの夜よるが、少すこしだけ古ふるい江戸えどの夜よるとつながった気きがしました。

食後しょくご、辰夫たつおさんが拍子木ひょうしぎを一度いちどだけ鳴ならしました。カチン。しばらくして、外そとの路地ろじで、カチン、とやさしい音おとが返かえりました。湊みなとは振ふり返かえらず、ただ窓まどを少すこし開あけました。夜風よかぜの中なかで、見みえない送り拍子木おくりひょうしぎが、今日きょうも町まちを送おくっているようでした。

参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 送り拍子木おくりひょうしぎは、本所七不思議ほんじょななふしぎの一ひとつとして語かたられます。

  2. 拍子木ひょうしぎは、火ひの用心ようじんや芝居しばいの合図あいずにも使つかわれました。

  3. 本所ほんじょは今いまの東京とうきょう都と墨田区すみだくあたりで、川かわと路地ろじの多おおい町まちでした。

  4. 送り提灯おくりぢょうちんは、見みえない何者なにものかが灯あかりで送おくる似にた怪異かいいです。

大切なこと

見みえない音おとにも、町まちを思おもう気持きもちが宿やどることがあります。ふしぎをすぐにこわいと決きめず、耳みみをすますと、昔むかしの人ひとのまなざしや暮くらしの知恵ちえがそっと近ちかづいてくるかもしれません。

肆
きをつけて

気をつけること

夜道よみちで拍子木ひょうしぎの音おとが背中せなかから返かえったら、まず火ひのにおいと足元あしもとをそっと確たしかめて。

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