妖怪キッズ
絵馬の精(読み方:えまのせい)の子供向けイラスト

えまにやどるやさしいこえ

絵馬の精・えまのせい
5-10歳向け絵馬の精のお話
壱
はじまり

絵馬の精って?

秋あきの神社じんじゃで、そうたは古ふるい絵馬えまを見みつけます。木きの香かおりと鈴すずの音おとの中なか、ふしぎな気配けはいが近ちかづきます。

弐
おはなし

お話

はじまり

秋あきの夕方ゆうがた、そうたは学校がっこうの帰かえりに、商店街しょうてんがいの奥おくにある小ちいさな神社じんじゃへ寄よりました。明日あしたは地域ちいきのお祭まつりで、境内けいだいには赤あかい提灯ちょうちんがならび、まだ灯あかりの入はいらない紙かみの白しろさが風かぜにゆれていました。
手水舎ちょうずやの水みずはつめたく、石いしの上うえには黄色きいろいいちょうの葉はがぴたりとはりついています。そうたは明日あしたの合唱がっしょうが上手じょうずにできますように、と思おもいながら、絵馬掛えまかけの前まえで足あしを止とめました。
そこには受験じゅけん、病気平癒びょうきへいゆ、家内安全かないあんぜん、勝利祈願しょうりきがんなど、たくさんの願ねがいが木きの札ふだに書かかれていました。いちばん端はしに、色いろのうすれた古ふるい絵馬えまが一枚いちまいあります。馬うまの絵えは少すこしかすれていましたが、黒くろい目めだけが夜よるの水みずみたいに光ひかって見みえました。

絵馬の精 のシーン 1

あるひのできごと

そうたが顔かおを近ちかづけると、ふわりと古ふるい木きの匂においがしました。おじいちゃんの家いえのたんすを開あけた時ときのような、少すこし甘あまくてしずかな匂においです。絵馬えまの裏うらには、もう読よみにくい文字もじで、だれかの願ねがいが残のこっていました。
その時とき、からん、と社殿しゃでんの鈴すずが鳴なりました。風かぜは止やんでいるのに、です。そうたが目めをこすると、絵馬掛えまかけのそばに白しろい着物きものの女ひとが立たっていました。髪かみは夜よるのように長ながく、顔かおは月つきの光ひかりをうすくのせたようでした。
女ひとはこわい声こえではなく、木きの葉はがこすれる音おとのように言いいました。「その絵馬えまには、長ながい年月ねんげつの祈願きがんがしみています。人ひとの願ねがいは、雨あめにぬれても、字じがうすれても、すぐには消きえません」
そうたは胸むねがどきどきしました。「あなたは、だれですか」
女ひとは少すこし笑わらいました。「絵馬えまの精せい。絵えの姿すがたや書かかれた思おもいに寄よりそって、まどろみの時ときに人ひとへ伝つたえるものです」

絵馬の精 のシーン 2

こころかようとき

そうたは思おもわず、古ふるい絵馬えまのひもに手てをかけました。よく見みたくて、少すこしだけ外はずそうとしたのです。すると、指先ゆびさきにぴりっと冷つめたい感かんじが走はしりました。
絵馬えまの精せいは静しずかに首くびをふりました。「奉納ほうのうされたものは、神仏しんぶつへ預あずけられた便たよりです。おもしろがって外はずしたり、笑わらったりしてはなりません。古ふるくても、そこに願ねがった人ひとの一日いちにちがあります」
そうたは手てを引ひっこめました。絵馬えまには、病やまいが軽かるくなりますように、と書かいてあったようです。何十年なんじゅうねんも前まえの字じかもしれません。そうたは見知みしらぬ人ひとが、ここで頭あたまを下さげた姿すがたを思おもい浮うかべました。
「ぼくの願ねがいも、ここに残のこるのかな」
「残のこります。けれど願ねがいは、木きの札ふだに閉とじこめるものではありません。書かいたあと、少すこしずつ歩あるく人ひとの背中せなかを押おすものです」
遠とおくで焼やきそばの匂においが流ながれてきました。お祭まつりの準備じゅんびをする大人おとなたちの声こえも聞きこえます。そうたは明日あしたの歌うたを小ちいさく口くちずさみました。女ひとの袖そでがふわりとゆれ、絵馬えまの馬うまの目めがやわらかく細ほそくなった気きがしました。

絵馬の精 のシーン 3

ふりかえって

次つぎの朝あさ、そうたは早はやく目めが覚さめました。夢ゆめだったのか、ほんとうだったのか、枕元まくらもとにはいちょうの葉はが一枚いちまいだけ置おかれていました。葉はは神社じんじゃの石畳いしだたみと同おなじ、ひんやりした匂においがしました。
放課後ほうかご、合唱がっしょうの前まえに、そうたはもう一度いちど、神社じんじゃへ行いきました。新あたらしい絵馬えまを買かい、ていねいな字じで、「みんなと声こえを合あわせられますように」と書かきました。うまく歌うたえますように、ではなく、みんなと合あわせることを願ねがったのは、昨夜さくやの言葉ことばが胸むねに残のこっていたからです。
絵馬えまを掛かける時とき、古ふるい馬うまの絵馬えまがことりと鳴なりました。そうたは小ちいさく頭あたまを下さげました。すると風かぜの中なかで、木きの葉はがこすれるような声こえがしました。
「よい道みちを」
お祭まつりの舞台ぶたいで、そうたの声こえは大おおきくはありませんでした。でも、となりの友ともだちの声こえとまざると、あたたかい布ぬのを広ひろげたようにやさしく響ひびきました。
夕暮ゆうぐれ、神社じんじゃの提灯ちょうちんに灯あかりが入はいるころ、絵馬掛えまかけの古ふるい絵馬えまは静しずかに揺ゆれていました。だれかの願ねがいと、そうたの願ねがいと、これから来くる人ひとの願ねがいを、そっと聞きいているようでした。

絵馬の精 のシーン 4
絵馬の精 のシーン 5
参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 絵馬えまは昔むかし、神様かみさまへ本物ほんものの馬うまをささげた風習ふうしゅうに由来ゆらいします。

  2. 古ふるい器物きぶつに霊れいが宿やどる考かんがえは、付喪神つくもがみの話はなしにも通つうじます。

  3. 絵馬えまの精せいは、夢ゆめやまどろみの中なかで吉凶きっきょうを告つげると語かたられます。

  4. 浅草あさくさで医師いしが絵馬えまの精せいに会あった話はなしが伝つたわっています。

大切なこと

願ねがいは書かいたら終おわりではなく、心こころの中なかで小ちいさな灯あかりになります。古ふるい絵馬えまにも、だれかの大切たいせつな時間じかんが宿やどっていると思おもうと、手てを合あわせる気持きもちが少すこし深ふかくなります。

肆
きをつけて

気をつけること

絵馬えまの文字もじが風かぜもないのにかすかに鳴なったら、願ねがいをからかわず、そっと目めを閉とじて鈴すずの音おとを聞きいてね。

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