妖怪キッズ
みんなの妖怪へ約12分
日和坊(読み方:ひよりぼう)の子供向けイラスト

ひよりぼうと青空のてるてる

日和坊・ひよりぼう
5-10歳向け日和坊のお話
壱
はじまり

日和坊って?

晴はれた日ひにだけ姿すがたを見みせるという日和坊ひよりぼう。梅雨つゆの神社じんじゃで、子こどもたちは小ちいさな気配けはいに出会であいます。

弐
おはなし

お話

はじまり

六月ろくがつの終おわり、町まちの小学校しょうがっこうでは日曜にちように夏越なごしの小ちいさなお祭まつりを開ひらく準備じゅんびをしていました。校庭こうていのむこうの神社じんじゃからは、しめった木きの匂においと、笹ささの青あおい香かおりが風かぜに混まじって届とどきます。けれど、空そらは毎日まいにち、灰色はいいろの雲くもでふたをされていました。

三年生さんねんせいのみおは、教室きょうしつの窓まどにてるてる坊主ぼうずをつるしました。白しろいティッシュに顔かおを描かき、赤あかい糸いとをきゅっと結むすびます。となりのりくは、「これで晴はれたら、やきそばの屋台やたいも出でるね」と鼻はなを鳴ならしました。まだ降ふっていない雨あめの匂においが、廊下ろうかまでしっとり入はいってきます。

放課後ほうかご、先生せんせいに頼たのまれて、みおとりくは神社じんじゃの社務所しゃむしょへ飾かざりの紙かみを届とどけに行いきました。石段いしだんは雨粒あまつぶのあとで黒くろく光ひかり、苔こけは指ゆびでさわると冷つめたそうです。鳥居とりいの下したに立たつと、雲くもの切きれ間まから細ほそい光ひかりが一本いっぽん、すうっと落おちてきました。

その光ひかりの中なかに、白しろくて丸まるいものがちょこんといました。坊主頭ぼうずあたまのようで、てるてる坊主ぼうずにも似にています。けれど布ぬのではなく、日ひなたの湯気ゆげを丸まるめたように、ふわりと揺ゆれていました。

日和坊 のシーン 1

ある日のできごと

「こんにちは」と、みおが小ちいさく言いうと、白しろいものは首くびをかしげました。顔かおは墨すみで点てんを打うったみたいに簡単かんたんで、口くちは糸いとほど細ほそい線せんです。けれど、その目めの奥おくは、よく晴はれた日ひの水みずたまりのようにきらっとしていました。

「ぼく、てるてる坊主ぼうず?」りくが聞きくと、白しろいものは袖そでもないのに胸むねを張はりました。「ひよりぼう」と言いった声こえは、からりと乾かわいた竹たけの鳴なる音おとに似にていました。「晴はれた日ひに顔かおを出だす。雨あめの日ひは出でぬ。常陸国ひたちのくにの山やまにもそんなふうに描えがかれたことがある」

みおは、図書室としょしつで見みた妖怪ようかいの本ほんを思おもい出だしました。江戸えどの絵師えし、鳥山石燕とりやませきえんの絵えに出でてくる、晴天せいてんを司つかさどる妖怪ようかい。くわしい昔話むかしばなしはあまり残のこっていないけれど、晴はれの日ひに現あらわれ、雨あめの時ときは姿すがたを見みせないと書かかれていた気きがします。

「じゃあ、お祭まつりを晴はれにしてくれる?」りくが身みを乗のり出だしました。ひよりぼうは、神社じんじゃの屋根やねの端はしを見上みあげました。ぽつん、ぽつん。雲くもからこぼれた雨あめが杉すぎの葉はを鳴ならします。すると、ひよりぼうの輪郭りんかくが少すこし薄うすくなりました。日ひなたの湯気ゆげが風かぜにほどけるようでした。

「雨あめが来くると、わしはここに長ながくはおれぬ」ひよりぼうは静しずかに言いいました。「晴はれを呼よぶと言いわれるが、雲くもを力ちからずくで押おしのけるものではない。人ひとが空そらを見みて、日和ひよりを願ねがう。その願ねがいのそばに立たつのだ」

日和坊 のシーン 2

心通うとき

雨あめはすぐに上あがりました。けれど空そらはまだ白しろく重おもたく、境内けいだいの砂すなは足あしの裏うらにしっとりつきました。みおは社務所しゃむしょの縁側えんがわで、濡ぬれない場所ばしょを探さがして紙かみを広ひろげました。「願ねがうそばに立たつって、どういうこと?」

ひよりぼうは、くるりと回まわって、みおの作つくったてるてる坊主ぼうずを見みました。「白しろい人形にんぎょうをつるして晴はれを願ねがう所ところはあちこちにある。日和坊主ひよりぼうずと呼よぶ所ところもある。だが、わしがその始はじまりと決きまったわけではない。昔むかしの人ひとは空そらに耳みみをすませ、祈いのりを形かたちにしたのだろう」

りくは空そらを見みました。雲くもの底そこは羊羹ようかんみたいに厚あつく、遠とおくのビルの窓まどだけが銀色ぎんいろに光ひかっています。「晴はれろ、晴はれろって言いうだけじゃだめなの?」

「だめではない」ひよりぼうは笑わらいました。笑わらうと、まわりの空気くうきが少すこし乾かわいて、畳たたみを干ほした日ひの匂においがしました。「けれど雨あめも山やまの木きを育そだて、田たを満みたす。晴はれだけを欲ほしがると、空そらの話はなしの半分はんぶんを聞ききのがす」

みおは筆ふでペンで、小ちいさな短冊たんざくに書かきました。「お祭まつりの時間じかんだけ、空そらがにこにこしますように」。りくは少すこし考かんがえて、「雨あめが降ふったら、雨あめの音おとも聞きけますように」と書かきました。二人ふたりが短冊たんざくを笹ささに結むすぶと、濡ぬれた葉はがさらさらと鳴なりました。

ひよりぼうは鳥居とりいのほうへ進すすみました。雲くもの薄うすい所ところから、夕方ゆうがたの光ひかりが柔やわらかく差さし、石畳いしだたみに小ちいさな金色きんいろの四角しかくを作つくります。その中なかに入はいると、ひよりぼうはまた少すこしはっきりしました。「よう聞きいた。空そらにも都合つごうがある。だが、願ねがいが丁寧ていねいなら、日和ひよりは道みちを探さがすこともある」

日和坊 のシーン 3

ふりかえって

お祭まつりの朝あさ、みおは雨あまだれの音おとで目めを覚さましました。胸むねがきゅっと小ちいさくなりましたが、窓まどを開あけると、雨あめは細ほそく、風かぜは涼すずしく、土つちの匂においがやさしく立たっていました。学校がっこうへ着つくころには、雲くもの端はしが明あかるくなり、神社じんじゃの森もりから鳥とりの声こえが聞きこえました。

昼ひるになると、雨あめはふっと止やみました。雲くもは残のこっていましたが、ところどころに青あおい窓まどが開ひらき、校庭こうていの水みずたまりには白しろいテントと子こどもたちの赤あかいうちわが映うつりました。やきそばの甘あまいソースの匂におい、綿わたあめの砂糖さとうの匂におい、太鼓たいこのどん、どんという音おとが混まざって、町まちは少すこし特別とくべつに見みえました。

日和坊 のシーン 4

みおとりくは神社じんじゃの笹ささを見みに行いきました。短冊たんざくは風かぜに揺ゆれ、昨日きのうの雨あめを小ちいさな玉たまにして光ひからせていました。その葉陰はかげに、白しろい丸まるいものが一瞬いっしゅん、ちょこんと見みえました。

「ひよりぼう!」りくが呼よびました。けれど次つぎの瞬間しゅんかん、白しろい姿すがたは日ひざしに溶とけるように薄うすくなりました。かわりに、笹ささの先さきから落おちた水滴すいてきが、みおの手ての甲こうにぽとりと当あたりました。冷つめたいのに、どこか温あたたかい気きがしました。

日和坊 のシーン 5

夕方ゆうがた、片かたづけが終おわるころ、空そらには淡あわい夕焼ゆうやけが広ひろがりました。みおのてるてる坊主ぼうずは、教室きょうしつの窓まどでくるくる回まわっています。顔かおは少すこしにじんでいましたが、前まえより笑わらっているように見みえました。

みおは思おもいました。ひよりぼうは、晴はれを運はこぶ大おおきな力ちからではなく、空そらを見上みあげる気持きもちのそばにいる小ちいさな影かげなのかもしれない。雨あめの日ひには見みえないけれど、雨あめが止やんだ後あとの光ひかりの中なかで、そっと手てを振ふっているのかもしれない。

参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 日和坊ひよりぼうは鳥山石燕とりやませきえんの妖怪画ようかいがに描えがかれた晴はれの妖怪ようかいです。

  2. 雨あめの時ときには姿すがたを見みせない、と説明せつめいされるのが日和坊ひよりぼうの大おおきな特徴とくちょうです。

  3. 西日本にしにほんには天気てんきを願ねがう人形にんぎょうを日和坊主ひよりぼうずと呼よぶ例れいがあります。

  4. てるてる坊主ぼうずとの関係かんけいは語かたられますが、同おなじ起源きげんとは断定だんていされていません。

大切なこと

晴はれを願ねがう心こころは、雨あめをきらう心こころだけではありません。空そらの都合つごうに耳みみをすませると、曇くもりの日ひにも小ちいさな明あかるさが見みつかることがあります。

肆
きをつけて

気をつけること

雨上あめあがりの日ひざしに白しろい坊主頭ぼうずあたまが揺ゆれたら、追おいかけず空そらを見上みあげて。日和坊ひよりぼうは雨雲あまぐもが戻もどると消きえます。

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