妖怪キッズ
蓑火(読み方:みのび)の子供向けイラスト

あまよのびわこにみのびきらり

蓑火・みのび
5-10歳向け蓑火のお話
壱
はじまり

蓑火って?

梅雨つゆの夜よる、琵琶湖びわこのほとりで小ちいさな光ひかりに出会であう子こどもの物語ものがたり。雨あめの音おとと湖みずうみの匂においがそっとひろがります。

弐
おはなし

お話

はじまり

梅雨つゆの彦根ひこねは、夕方ゆうがたになると琵琶湖びわこからしめった風かぜが吹ふいてきます。小学しょうがく三年さんねんのそうたは、祖父そふの小ちいさな舟ふね小屋ごやで、雨あめの音おとを聞きいていました。とん、とん、とん。屋根やねを打うつ雨あめは、太鼓たいこよりやわらかく、眠ねむい歌うたのようでした。
その夜よるは、近ちかくの神社じんじゃで夏越なごしの準備じゅんびがあり、湖岸こがんの道みちに提灯ちょうちんを運はこぶことになっていました。けれど雨あめが強つよくなり、道みちはぬかるみ、祖父そふは古ふるい蓑みのを出だしました。
「昔むかしの雨具あまぐや。ちくちくするが、雨あめをよくはじく」
そうたが羽織はおると、藁わらの匂においと湖みずうみの冷つめたさが背中せなかにくっつきました。舟ふね小屋ごやの外そとでは、灰色はいいろの湖みずうみが息いきをしているように、ちゃぷ、ちゃぷと鳴なっていました。

蓑火 のシーン 1

あめのよのひかり

祖父そふとそうたは、湖岸こがんを少すこし歩あるき、桟橋さんばしへ出でました。提灯ちょうちんは油紙あぶらがみに包つつまれ、そうたの腕うでの中なかでかさりと鳴なります。雨あめは細ほそく、けれど切きれ目めなく降ふっていました。
そのとき、そうたの胸むねのあたりで、ぽつん、と青白あおじろい光ひかりがともりました。蛍ほたるみたいに小ちいさく、火ひの匂においはありません。熱あつくもありません。
「おじいちゃん、これ」
祖父そふは目めを細ほそめました。「ああ、蓑火みのびかもしれん」
光ひかりはひとつ、ふたつ、みっつ。蓑みのの藁わらの先さきにつき、星ほしの瞬またたきのようにちかちかしました。そうたはあわてて手てで払はらいました。すると、光ひかりは消きえるどころか、ぱらぱらと増ふえました。小ちいさな夜空よぞらを着きているみたいでした。
「払はらうと増ふえる、と言いうんや。燃もえはせん。けれどさわがんでよい」
祖父そふの声こえは、雨あめの音おとにまじって静しずかでした。

蓑火 のシーン 2
蓑火 のシーン 3

ふねのうえのまたたき

桟橋さんばしの先さきで、風かぜがふわりと向むきを変かえました。湖みずうみの水みずの匂においが濃こくなり、遠とおくで船ふねの鈴すずがりん、と鳴なった気きがしました。そうたは蓑みのにともる蓑火みのびを見みつめました。こわい火ひというより、だれかが暗くらい水みずの上うえで合図あいずを送おくっているようでした。
祖父そふは昔話むかしばなしをぽつりと話はなしました。「旧暦きゅうれき五月ごがつの雨夜あまよ、舟ふねに乗のる者ものの蓑みのにつく、と彦根ひこねでは言いうた。水みずで亡なくなった人ひとの思おもい、と言いう人ひともおった。けれど、火ひを点ともせば退しりぞく、とも、待まてば消きえる、とも言いう」
そうたは提灯ちょうちんの中なかの小ちいさな明あかりをそっとつけました。黄色きいろい灯ひが雨あめを丸まるく照てらすと、蓑火みのびの青白あおじろさは少すこし弱よわまりました。けれどすぐには消きえず、名残なごりの星ほしのようにまたたきます。
そうたはもう払はらいませんでした。ただ、湖みずうみへ向むかって小ちいさく頭あたまを下さげました。雨あめの粒つぶがほおを流ながれ、冷つめたいのにどこかあたたかく感かんじました。

蓑火 のシーン 4

ひかりのあと

しばらく待まつと、蓑火みのびはひとつずつ薄うすくなりました。ぽう、ぽう、と息いきを吐はくように消きえ、最後さいごのひとつが藁わらの先さきで小ちいさく揺ゆれて、雨あめの闇やみへ溶とけました。蓑みのには焦こげ跡あともなく、ただしっとりと重おもいだけでした。
神社じんじゃへ着つくと、茅ちの輪わの青あおい草くさの匂においがしました。提灯ちょうちんの灯ひが石畳いしだたみににじみ、雨あめの水みずたまりには小ちいさな月つきみたいな光ひかりがいくつも浮うかびました。
そうたはだれにも大おおげさに話はなしませんでした。ただ、祖父そふと二人ふたりで蓑みのを干ほしながら、「払はらわないで見みるほうが、よく見みえるものもあるんやね」と言いいました。
祖父そふはうなずきました。「湖みずうみには湖みずうみの記憶きおくがある。雨あめの夜よるは、それが少すこし光ひかるのかもしれんな」
翌朝よくあさ、雨あめは上あがり、琵琶湖びわこは銀色ぎんいろに光ひかっていました。そうたの手てには、まだ藁わらのちくちくした感かんじが残のこっていました。

蓑火 のシーン 5
参
まめちしき

おもしろい豆知識

  1. 蓑火みのびは近江国おうみのくにの彦根ひこねや琵琶湖びわこ周辺しゅうへんに伝つたわる怪火かいかです。

  2. 蓑みのにつく光ひかりは熱あつくなく、燃もえ広ひろがらないと語かたられます。

  3. 手てで払はらうと数かずが増ふえるため、しばらく待まつのがよいとされました。

  4. 北陸ほくりくや越後えちご、出羽でわでは蓑虫火みのむしびやミノボシとも呼よばれます。

  5. 近代きんだいには気体きたい発光はっこう現象げんしょうの一種いっしゅと考かんがえる見方みかたもあります。

大切なこと

こわいと思おもったものも、あわてて払はらわず見みつめると、昔むかしの人ひとの声こえや土地とちの記憶きおくがそっと聞きこえることがあります。雨あめの夜よるの小ちいさな光ひかりは、静しずかに待まつ心こころを教おしえてくれます。

肆
きをつけて

気をつけること

雨夜あまよに衣ころもや傘かさへ青白あおじろい点てんがついたら、手てで払はらわず、火ひの明あかりを近ちかくに置おいて静しずかに待まちましょう。

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