妖怪キッズ
親向けガイド

年齢別 おすすめ妖怪 ─ 3 歳から 12 歳まで

「うちの子に 雪女 はまだ早い?」 そんな ご相談を、よく いただきます。

8 分で読めます親向けガイド

「うちの 子に 雪女は まだ 早いでしょうか?」 — そんな ご相談を、 編集部に いただく ことが ある。 五歳の 男の子が 図書館で 雪女の 絵本を 開いてしまい、 その夜 眠れなく なった、 という お母さまからの メッセージ だった。

妖怪は、 同じ 一体でも、 三歳と 十歳では まったく 違う 顔を 見せる。 三歳には 怖くて 仕方ない 鬼が、 八歳には 「退治される 側にも 事情が あるのでは」 と 映る。 受け取る 側の 内側が 育って いく からこそ、 妖怪も 一緒に 育って いく わけで、 ここに 親子で 読む おもしろさが ある。

以下は 編集部が、 児童書の 編集者・絵本作家・小学校の 司書 と 対話を 重ねながら 整えた、 年齢帯ごとの 手がかり である。 もちろん 実際の お子さまには 個人差が あるので、 あくまで 「目安の 地図」 として 受け取って ほしい。

3 歳〜4 歳 ─ 形が やさしく、 そばに いる 妖怪

この 時期の 子どもは、 ピアジェの 言う 前操作期に あたる。 ぬいぐるみに 名前を つけ、 雲や 月に 話しかけ、 お椀の 中に 小さな 海が ある と 信じる ─ 世界の すべてに 心が あると 感じる、 アニミズム的 思考が 強い 段階。 ここでは 「怖い 話」 よりも、 「身の まわりに、 やさしい 生きものが いる」 という 感覚の 拡張 が 子どもの 安心に つながる。

この 段階に 響く のは、 形が シンプルで、 表情に 攻撃性の ない 妖怪。 家の 中で 暮らして いたり、 海から 静かに 来たり、 毎日 使う 道具に 宿って いたり ─ つまり、 子どもが 自分の 生活と 地続きに 想像できる 相手 が 良い。

編集部から おすすめ するのは、 家の 隅に 住んで いる とされる 座敷童子、 海から やってきた 不思議な 形の アマビエ、 そして 掃除道具に 宿る 箒神 の 三体。 どれも 「攻撃して こない」 「家の そば に いる」 という 点で、 三歳の 子どもの 世界観に なじみやすい。

親が 一緒に できる 楽しみ方は、 読んだ あとに 「うちの 座敷童子は どこに いるかな?」 と 部屋を 見回して みる、 画用紙に 自分の 妖怪を 描いて みる、 ぬいぐるみに 名前を つける、 ぐらいの ささやかな 遊びで 充分。 物語の 筋を 覚えさせる 必要は ない。 むしろ 「家の 中に、 見えない けれど きっと いる 誰かが いる」 という 余白 だけが、 静かに 残れば いい。

逆に、 雪女 や 鬼 など 「死」 や 「攻撃」 を 直接 描く 妖怪は、 この 年齢には まだ 重い。 抽象 として 受け止める 足場が ない 段階で 強い 怖さに 触れると、 ただ 怖い という 記憶 だけが 残って しまい、 妖怪 そのものを 拒絶 する 入口に なって しまう ことが ある。

5 歳〜7 歳 ─ 教訓と、 短い 冒険

年中・年長から 小学校 低学年 にかけては、 ピアジェの 前操作期の 後半 から 具体的操作期 に 入る 過渡期。 「よい 子・わるい 子」 の 二項に 強く なじみ、 善悪・約束・きまり が 物語の 骨組みと して すんなり 入る ように なる。 同時に、 短い 冒険を 自分の ものとして 追体験 できる 想像力 も ここで 急速に 伸びる。

この 段階の 子どもには、 はっきり とした きっかけ と 小さな 結末を 持つ 妖怪 が 響く。 川には 河童が いるから 近づきすぎて は いけない、 約束を 守れば 助けて もらえる ─ そういう 「行動と 結果」 が 短く 結ばれる 物語 は、 この 時期の 認知 と 相性が よい。

おすすめ は、 川辺の 安全 と 結びついた 河童、 賢く 化ける ことで 知られる 、 小さな 体で 鬼を 退治して しまう 一寸法師。 河童は 「水辺で 騒ぎすぎ ない」 「人の 言うことを 聞く」 という 暮らしの きまり と 結びつき、 狐は 「賢さ」 という 価値、 一寸法師は 「小さくても、 工夫で 勝てる」 と いう 自尊感情 に そっと 触れて くれる。

本を 読み終えた あと、 「もし 自分が 一寸法師 だったら、 どこに 隠れる?」 「狐に 化けられる なら、 何に なる?」 と、 物語を 自分に 引き寄せる 問い を 一つ だけ 投げて みる と、 子どもは とたんに 饒舌に なる。 大人の 解説 を つけ加える 必要は ない。 子どもが 自分で 物語に 入って いく のを、 うなずきながら 聞いて あげれば 良い。

山姥 や 雪女 の、 「親と 引きはなされる」 「置き去りに される」 と いった 場面は、 この 時期 の 子には まだ 重い ことが ある。 分離不安 が 残って いる 年齢で、 抽象的な 死生観 を 抱える 前 段階 だから だ。 同じ 妖怪でも、 民話の どの 版を 選ぶか で 印象は ずいぶん 変わる ので、 親が 先に ざっと 目を 通して おく と 安心 できる。

8 歳〜10 歳 ─ 物語の 深さ、 立場の 反転

小学校 中学年 ぐらいに なると、 具体的操作期 が しっかり 立ち上がって くる。 ものごとを 一つの 視点 から だけで なく、 相手の 立場 から も 見られる ように なる ─ 心理学では これを 脱中心化 と 呼ぶ。 「鬼を 退治する 桃太郎」 と いう 一方向の 物語が、 「鬼にも 母が いた かも しれない」 と いう 反転を 引き受けられる 段階に 入って いく。

この 時期の 子どもには、 物語に 深さ と 重なり を 持った 妖怪 が 響く。 善玉 と 悪玉 の 単純な 構図 に 飽きはじめ、 「どうして そう なって しまった のか」 という 因果 を 追いかけたく なる。 ここで 妖怪は、 単なる 怖い 存在 から、 何かを 失った 人 や、 行き場の なかった 心 として 立ちあがる。

編集部が 推して おきたい のは、 桃太郎の 入口 から 入りつつ 「悲しい 鬼」 にも 出会わせ たい 、 山伏や 修行者の 影と 重なる 天狗、 そして 美しさ と 悲しさ を 同時に 抱える 雪女。 いずれも、 「やっつけて 終わり」 では 済まない 深みを 持って いて、 子どもの 中に 静かな 問い を 残す。

この 年齢に なると、 同じ 民話の 違う バージョンを 比べる 遊び が 急に 楽しく なる。 たとえば 桃太郎 一つ とっても、 江戸期の 版 と 明治の 教科書版 と 現代の 絵本版 では、 鬼の 描き方 も、 退治の 後の 始末 も かなり 違う。 図書館で 二冊 借りて きて、 「こっちでは 鬼が 泣いてた けど、 こっちは 泣いて ない ね」 と 並べて みる と、 物語は 一つでは ない、 伝える 人 によって 形が 変わる、 と いう 大きな 発見 へと 子どもを 連れて いって くれる。

ただ、 古い 版の 民話には 残酷な 描写が 強く 残った もの も ある。 子どもの 性格に よっては こたえる ので、 親が 先に さらって おく と よい。 この 段階の 子どもは 「怖いけど 読みたい」 が 普通に 共存 する ので、 怖さ そのもの を 避ける 必要は ない。 ただ、 寝る 前 では なく 昼間に 読む、 ぐらいの さじ加減 が ちょうど よい こと が 多い。

10 歳〜12 歳 ─ 神話・歴史、 自分なりの 解釈へ

高学年に 近づくと、 具体的操作期 の 後半 から、 ピアジェの 言う 形式的操作期 へ 足を 踏み入れて いく。 目に 見えない 概念 ─ 国家、 信仰、 病、 死 ─ を 抽象 として 扱える ように なり、 妖怪が 単なる キャラクター から 「ある 時代の 人々が 何かを 物語化した 痕跡」 として 立ちあがって くる。

この 段階の 妖怪は、 もはや 怖い・怖く ない の 軸では 測れない。 歴史の 中で 抑圧 された 集団 の 影で あったり、 都市が 抱えた 病の 象徴 で あったり、 学問 と 政治 の 交点 に いた 人物 で あったり する。 子どもの 知的 好奇心 が、 妖怪 を 通して 日本 の 古層 へ つながって いく 入口 が、 ここから 開く。

おすすめ は、 大和朝廷 と 異族 との 戦いの 記憶 を 担う 土蜘蛛、 平安京 の 怪異 として 病 や 不安 の 象徴 でも あった 、 そして 妖怪 退治 の 物語の 中で 必ず 名前 の 出て くる、 歴史人物 の 安倍晴明。 この 三つは、 妖怪 を 「物語」 で 終わらせ ず、 「日本 の 歴史 と 信仰 の 中で 何が どう 語られて きたか」 と いう 大きな 文脈 へ、 子どもを そっと 押し出して くれる。

この 時期 から は、 京都 や 奈良 へ 「妖怪 旅行」 を して みる のも 良い。 一条戻橋、 清明神社、 三井寺、 大江山 ─ 物語の 舞台 を 自分の 足で 歩く 体験 は、 教科書 の 歴史 と 妖怪 と が 子どもの 中で つながって いく 強い きっかけ に なる。 帰って きた あと、 「鵺は どうして 平安京 に 出た んだろうね」 と いう 問い を 親子で 持ち越せる なら、 もう 妖怪は ただの 怖い 話 では ない。

同じ 一冊を、 違う 時期に

年齢別の 案内 と いう のは、 結局 のところ 「禁止リスト」 を 作る ためで は ない。 三歳 で 雪女 を 読んで しまった 子も、 八歳 で もう 一度 雪女 に 出会えば、 まったく 別の 美しさ として 立ち現れる。 同じ 一冊を 違う 時期に 読み返す 自由 を、 親が 残して おいて あげる ─ それが 一番 大事 な ことかも しれない。

その夜 眠れなく なった 五歳の 男の子に、 編集部 から お返し したのは、 「いま は ちょっと 早いだけ。 雪女 は、 また 八歳 ぐらいで 会いに きて ください」 という 一文 だった。 妖怪 は 逃げない。 子ども の 内側 が 整う のを、 ずっと 静かに 待って いる。

お子さまと いっしょに

妖怪たちに 会いに行く。

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